保活情報の今昔

2016年02月29日

渋谷区議会議員になったのは平成19年。今年で9年目に突入しました。
平成20年に1冊目の「岡田マリ的渋谷区ガイド」を作成。渋谷区の子育て支援は実はとても充実していることを知り、「子育て」についての情報を少しでもお伝えしたいという思いでポケットサイズのガイドを作ったのが最初でした。
その後、更なる情報をまとめた全64ページの冊子「岡田マリ的渋谷区子育てガイド」や子育てホームページの作成、そして実際に皆様にお目にかかって子育て支援情報をご説明したり、参加者のみなさんと意見交換をする「ハッピー渋谷区子育てトーク」は41回を重ねました。
「子育てトーク」では特に「保育園入園、保活について」というテーマで回を重ね、大勢のみなさんにご参加いただきました。
 
この9年間で私が感じた渋谷区の待機児童対策とその課題についてお話します。
 
「保活」という言葉が出てきたのはここ4,5年くらいのことでしょうか。
 
ここで渋谷区の人口推移について少し解説させていただきます。
 
渋谷区の住民登録は平成19年197,214名から現在は220,288名(平成28年2月1日現在)、出生届者数は平成20年1,504名から平成26年は1,994名。

人口増は20,000人、出生数は490人増です。
また転出者より転入者が多く、人口増が続いているのが渋谷区の特徴です。

合計特殊出生率は平成17年の0.7から平成26年は1.02と、0.32ポイント上昇といううれしい推移となりました。
 
 
しかし、残念ながら渋谷区の人口、出生数の増に比例して、待機児童数の推移は、平成20年4月は29名、21年は78名、22年78名、23年128名、24年135名、25年73名、26年120名、27年252名と、増えていっているのも事実です。
 
もちろん渋谷区はこれまでも待機児童対策に力を入れ続けてきました。平成17年度から平成27年度までに認可保育園、認定こども園の新たな設置で1,252名の確保を、区独自の幼保一元化施設、独自の区立保育室、認証保育所などの整備で更に500名を超える定員の確保をしてきました。
 
待機児童が増えた要因は人口増だけでなく、この9年間で必要とされる保育事情や保活事情も大きく変わったと感じます。
以前、「子育てトーク」に参加されるお母さまはフルタイムや自営業の方ばかりではなく、パートのために保育園を申請するお母さまもいらして、実際にそういう方でも保育施設を利用できることもありました。また以前は兄弟、姉妹入園は珍しく、第一子で申請準備するという方の参加が多かったことを覚えています。
一方、現在「子育てトーク」に参加される方はフルタイムや自営業の方が多くなったこと、そして兄妹、姉妹がすでに入られていて、第2子対策で子育てトークに参加される方も少なくないということを実感しています。
 
国の制度も改善されました。
今から約25年前、大学の同級生たちのほとんどは結婚と同時に仕事を辞めるというのが当たり前でした。結婚式に招待されて、そこに会社の上司がいて、そのまま退職というケースがほとんど。こうして結婚をして会社を退職し、専業主婦となった女性が多かったと思います。
 
それから四半世紀、育児休業法による制度が定着したということもあり、仕事を続けながら出産、育児がほぼ当たり前となりました。女性が普通に活躍しやすい良い時代になったなぁと実感します。
しかし、これだけ働く女性が増えたにも関わらず、まだまだ子育て環境の整備は遅れています。
 
これだけ法の整備や女性の活躍を推進しておきながら、仕事と育児を両立させるための保育園の需要増を想定していなかったのかしら?と疑問に思います。
 
夫婦二人のダブルインカムだからこそ安心して育児ができ、また特に渋谷区のように家賃等住居費が高い地域では、夫婦片方の稼ぎのみではなく、夫婦二人の収 入があってようやく生活が成り立つ、という家庭が少なくありません。
 
「子育てトーク」に参加くださるお母さまたちの職業は多様で、保育園が見つかり次第、一線でバリバリと仕事される方たちばかり。求職中のお母さまも仕事さえ見つかれば即戦力となりそうな方が多いです。
もしこうした女性たちが保育施設を利用できず、仕事を辞めなければならないという状態になれば、職場や社会にとっての大きな大きな損失です。こうした女性たちが安心して仕事を続けることができるよう、保育園の整備は必要不可欠です。
 
渋谷区ではこれまで0歳児から預けられる保育園の整備を進めてきました。
しかし今や女性の働き方は多様になってきました。
最近では育児休暇制度(育休)を利用される方も多くなりました。1年から1年半はこの育休制度を利用して、生まれたばかりのわが子との時間をしっかり過ごしてから復職をと考えている人は少なくありません。職場によっては2年、3年の育休制度が整備されているところもあります。
しかし、前述のようにいまの渋谷区の保育園は0歳児からの園がほとんどで、更に認可園に申請する際に「受託(認可外等どこかに預けて、仕事に復職している)」であれば「優先」ポイントがつき、入りやすくなるという仕組みとなっています。そのため、本来利用できる育児休暇を短縮し、復職を早めるというお母様もおられます。せっかく整備された育児休暇制度を利用してわが子ともう少し長く過ごしたいという思いを叶えるのは難しい状態です。
 
なぜ0歳児園が増えるのか?
0歳児には、お子さん3人につき保育士が一人必要という基準です。そして私立認可保育園には保育士の数や年齢に比例して補助金が支払われます。となると0歳児保育を行っている園には補助金が多く支払われるため、どこも0歳児園に手を挙げるということになります。現在保育士不足が問題となっていますが、保育士をより必要とする0歳児保育の園が増えているということも原因の一つと考えられます。
保育園の整備・運営については、規定で必要とされる保育士の数であっても現場は常に仕事に追われていると聞きます。安全を考慮して、子育てベテランのお母様などにパートなどで協力してもらい保育環境を整えるということもできるのでは、と思います。
もちろん、0歳児から入園して、すぐにでも職場復帰を!というお母さまもいらっしゃいますので多様な選択肢を担保する必要があります。
 
小学校では多くの児童が通うことができるのに、どうして保育園は同じようにできないの?というご質問もよくいただきます。
学校教育法では小学校は一クラス35人または40人基準に対して基本的に担任1名の配置(学校の全学級数によって加配や副担任の数は異なります)。
一方幼保連携型認定こども園の認可基準や児童福祉法では認可保育所の保育士の配置は乳児3人につき保育士1名、1歳から2歳は6人につき保育士1名、3歳児については20名につき1名の保育士となっています。また面積基準については乳児1人につき乳児室1.65㎡以上、ほふく室(ほふく前進のできるスペース)3.3㎡以上、2歳以上は保育室・遊戯室 が1.98㎡以上(園庭等除く)という面積基準など、こうした厳しい基準から一つの保育園の園児数はどうしても限られてしまいます。
例えば100名規模の小学校と同じ規模の保育園(かなり大きな園です)をつくったとしても0歳児から5歳児までのお子さは各年齢につき20名弱(0歳児は基準が厳しいためさらに少ないことが多い)しか収容できません。
認可園についてはこうした園の面積基準の他に園庭の設置なども基準に入っており、土地の高い渋谷区ではなおさら厳しいというのが現状です。たとえ土地が手当できたとしても、しっかりした保育施設を建てるには1年以上かかることを考えあわせると現実に即しません。
 
そこで、この待ったなしの待機児童に対応するために渋谷区が建てたのが「区立保育室」です。
公園の一部や区施設の一部などにプレハブを設置し保育室として運営しています。プレハブと言っても、床暖房なども完備され、しっかりした作りです。
この保育室はその年度まで通うことができ、次年度の保育施設の申込をしなければなりませんが、保育室では0歳児はもちろん、各年次の定員が一度に全て新年度に入園することができます。(認可園では0歳児園は0歳児の定員がそのまま募集人数に、1歳児園は1歳児の定員数が募集人数ですが、その上の年次の募集人数は限られてきますよね。)保育室が渋谷区に設置された当初は、高い確率で保育室から認可園への転入ができました。
以前は保育園で3歳児以上の空きが出やすい状態でした。幼稚園へ転入をされるお子さんがいたからです。幼稚園からの方が小学校受験に有利とされていたようですが、母も働くのが当たり前の世の中になり、保育園からでも小学校受験は不利ではない、という風潮になってきました。
しかし保育室増設も伴い、3歳児以上の認可園への転園は難しくなってきたということも現在の大きな課題です。
 
保育室が0-2、または0-3歳児が中心だとすると当然ながらそのあとの3,4,5歳児の受け皿をしっかり確保しなければなりません。
こうしたことから渋谷区では0~2、3歳までのお子さんの受け皿だけではなく、その次の年齢の受け皿の確保も課題となっています。国も0~2歳児の小規模保育などを奨励していますが、早晩その先の3歳児以上の受け皿も必要となってくるでしょう。それだけではなく、国が育児休暇を推進しているのであれば、育児休暇をしっかりとっても入園できる仕組みも必要となってきています。
 
最近では第一子の保育園入園が厳しいだけでなく、兄弟・姉妹の同じ園の入園も厳しくなりつつあります。
「0歳児が入るための保活」だけではなく、多様なニーズに応えられるような「保活のダイバーシティ」を目指し、確実に継続的にお子さんを預けられる環境を目指していくということが今後の課題です。
 
今後も議会での質問や提案を通して、保育の課題に対する不安や問題を少しでも減らせるよう動いて参ります。
 
2016年2月29日 岡田マリ
 
 
参考資料
児童福祉施設の設備及び運営に関する基準
学校教育法